アーティスト、イラストレーターとしての成功を目標に掲げ、急かされるように作品づくりに取り組んできた田岡さん。
福岡でのヨシコさんとの出会い(文通)をきっかけに、いい意味で肩の力が抜け、日常生活と寄り添うカタチでアート作品の制作にも向き合えるようになったという。
そんな今現在の田岡さんの作品とのかかわりについて、聞いてみた。
山との出会いで作風が変わってきた

福岡ではヨシコさんとの出会いも大きかったが、山との出会いも田岡さんに大きな心境の変化をもたらした。
第2話で紹介したZINE「山とTAOKA」もそうだったが、作品がシンプルになったというかミニマル化した。

山登りってリュックに詰めれるものって制限されてるじゃないですか。
例えば20Lのリュックで登るとして、いっぱい詰めすぎたら重いですし、しんどいので「いかに要るものだけを20Lに詰めていくか」みたいな。



それをやっていく中で、割り切りが上手くなったというか。



制限されているなかでの選択というか、山登りをしてて学ぶことがすごく多くて。



その中で何が本当に大切なのかみたいなのを峻別した時に、そこまで無理して背負うことはないんちゃうかみたいな。



そうです。要るものだけを持っていったらしんどくない。
削ぎ落された感じがすごいありますね。


その「削ぎ落された感じ」は精神的なことだけではなく、物理的に作品のサイズにも影響を与えた。
以前はキャンバスを張って、比較的大きめの油絵が中心だったが、
- 折り紙
- 水性マーカー
というホームセンターとかで気軽に買えるものを素材に、作品をつくりはじめた。



作品のサイズも小さくなって、全部リュックに入っちゃうくらいのサイズなんですよ。
大きなサイズの油絵とかだと、アトリエでしか制作できないけど、その点も便利です。



どこでも描けるみたいな。



今の仕事はハイエースであっちこっち出張に行って、数日ホテル暮らしみたいなことも多いんですけど、折り紙と水彩マーカーで描く小さな絵なんで、ホテルの机でもできます。



作品のサイズは小さくなったけど、テーマ自体は変わってきたりしてるんですか?



そこは変わってなくて、身近な風景とか家族とか。
あとは、小さいものをどう大きく見せるかみたいな発想に変わてきて、その小っちゃいのを100個組み合わせて展示するとか、そんな感じにはなってきています。
そんな水彩マーカーと折り紙で描く、田岡さんの近年の作品を以下でいくつかご紹介する。
水彩マーカーと折り紙で描く兵庫区の日常風景


上の写真は、「兵庫景」と題した兵庫区内の身近な風景を描くシリーズ。
水性ペンと折り紙を使用し、あえて人物は描かず、大胆に画面を構成している。



「兵庫景」を描き始めたきっかけとかは、あったりするんですか。



「神戸百景」などの作品で知られる版画家川西英さんの作風が好きで、そのオマージュも意識しました。
あとは福岡に単身赴任して、兵庫区の景色が無性に恋しくなったのもあります(笑)。



なるほど(笑)



あとは、普段の飾らないリアルな神戸を描いて、人口減が進む街を応援したいという思いもありました。
和田岬「笠松湯」での個展


現在、和田岬(神戸市兵庫区)に住む田岡さんだが、自宅近くにある「笠松湯」で作品展を開いたこともある。
笠松湯は1948(昭和23)年に創業の老舗銭湯。
展示したのは、上でご紹介した「兵庫景」シリーズ。
また、笠松湯のオリジナルグッズのデザインも田岡さんが手掛けた。





上の写真のTシャツのほか、キーホルダーなどのオリジナルグッズを制作させていただきました。笠松湯でお求めいただけます。
六甲山上で開催されている芸術祭「六甲ミーツ・アート芸術散歩」


六甲ミーツ・アート 芸術散歩とは
六甲山の山上施設で展開される現代アートの展覧会のこと。六甲山の自然、歴史、文化の特徴を取り入れた作品を展示することで、来場者に六甲山の魅力を再発見してもらうことが目的です。
出典:YAMAP MAGAZINE
この「六甲ミーツ・アート 芸術散歩」にも2020年に出展し、上でご紹介した「兵庫景」の一部とともに、六甲山の風景や六甲の街角など100点を描いた「六甲景」を展示した。
趣味となった山登りと、自身の作品づくり、イベントへの参加という流れは単身赴任時代の福岡から始まっていて、そこには初めて山登りしたときに知り合ったおっちゃんから教わった登山地図アプリ「ヤマップ」がかかわっている。



調べたら本社が福岡で、大分の九重連山で「CALLING MOUNTAIN」っていうフェスをやるっていうのを知って、自分も何かやってみたいって、こっちから連絡したんですよ。
それで、そのフェスでワークショップをすることになって。



絵画関係のですか?



そのときは、九重町の役場でいらなくなったチラシとかを貰ってきて、そのチラシでメンコみたいなものを作って山の上でメンコバトルをするみたいな。
フェスって割と大人はお気に入りのミュージシャンとかがいてそっちにワーッと行きますけど、子供はけっこう放置されてるので、フェス会場の託児所みたいな感じで参加させてもらって。





なるほど。九州の山に出会って、そこからこのイベントに関わって、なんとなく山関係のものがアートに繋がっていくみたいな流れに。



そうですね。単身赴任が終わってこっちに帰ってきたときに、六甲ミーツ・アートに声をかけてもらって、招待作家として参加させていただいたり。
それが2020年ですね。



2020年というと、コロナ禍ですか?



はい。なんとか開催にこぎつけて、すごいお客さんが来たんですよ。コロナ禍でしたけど、とくにトラブルになることもなく、楽しかったですね。
アート関連本が揃う図書館「CAP Library」→ブックカフェ「sumico」を運営


2022年の5月、神戸市立海外移住と文化の交流センター(神戸市中央区)内にオープンした図書館「CAP Library」。
その室長を務めるが田岡さんで、同図書館の企画・運営にはC.A.P.(キャップ)というアートグループが関わっている。
C.A.P.(特定非営利活動法人 芸術と計画会議)とは
設立者の杉山知子を含む11名のアーティストで1994年にスタート。’95年、フランスのアーティスト達からの震災義援金をきっかけに、市民参画のプログラムを行なった。その後も旧居留地一体を使ったアートイベントなど数多く実施。1999年には旧神戸移住センターを利用して「CAP HOUSE〜190日間の芸術的実験」を実施。2002年NPO法人となって2007年までCAP HOUSEプロジェクトを継続。同建物は2009年に市立海外移住と文化の交流センターとなり、C.A.P.は現在指定管理者として活動を続け、また市民の寄付で海外のアートグループとの活動も活発。2016年にスタートしたSee Saw SeedsではこれまでC.A.P.とドイツ、UAE、フィンランドなどのアートグループの間で30人以上のアーティストが行き来している。
出典:+5(プラスファイブ) – アーティストの連帯が街に浸透する C.A.P.(芸術と計画会議)の試み<前編>
上の説明に出てくる旧神戸移住センター(現:神戸市立海外移住と文化の交流センター)の中にC.A.P.の「KOBE STUDIO Y3」というアトリエがあり、田岡さんも2011年から3年間利用した。
その他、さまざまなアーティストたちが制作の場や作品発表の場として使ってきたわけだが、その歴代のアーティストたちが残していった本や資料がかなり溜まっていた。
具体的には、
- 美術関連書籍
- 作品集
- 日本や世界のアートセンターなどから届く画集や記録集
- アーティスト関連本
- フリーペーパー etc.



その膨大な資料をまとめて図書館にしたら面白いんとちゃうん、みたいな。



はい。2022年5月にオープンしたんですけど、今また新しい動きが出ていて、2023年5月にそのスペースの1階にカフェを作り、Libraryの本や本棚を移設させました。



あ、ブックカフェみたいな感じですかね。



そんな感じで、「sumico」といいます。カフェ内の本棚を担当していますので、よろしくお願いします。
ぜひ、一度遊びに来てください!
◤sumico◢◤
OPEN 11:00~17:00/月曜休/営業時間はイベントにより変動します
神戸市中央区山本通3-19-8海外移住と文化の交流センター1F
和田神社の天井画を夫婦で制作


神戸市兵庫区・和田岬に鎮座する「和田神社」。
平清盛にゆかりがあり、地元神戸のJリーグチーム「ヴィッセル神戸」が毎年必勝祈願をしている神社としても有名だ。
田岡さんのご近所さんでもあり、日頃から交流があったご縁で制作を依頼されたのが、天井画の制作だった。



2014年に依頼を受けて、2015年に80点完成しました。僕というより、ほとんど妻が手掛けたんですけど。



鳥と草花の画が並んでいますね。





四季を通して地元神戸の植物を描くことになり、資料集めのために六甲山や森林植物園など、お弁当を持って息子と家族3人で、よく出かけていました。
その後、宮司さんから「鳥を描いた天井画を追加で制作してほしい」と、妻が依頼を受けた感じで。



全部で何枚くらいあるんですか?



鳥の絵は47枚あって、妻が丸3年かけて完成させたもので、2021年に奉納しました。なので、全部あわせると127枚ですね。



たくさんの人に見てもらえるし、地元の神社に自分たちの作品を納められるのはうれしいですよね。



そうですね。和田神社拝殿の天井画は、社務所職員の方にお声掛けをしていただければ見学可能なので、近く来た際などにぜひ見学してみてください!
さいごに


大学時代から本格的に絵画の制作に取り組み、「絵を売って儲けないといけない」「有名にならないといけない」と当時は何か追われるように作品づくりと向き合っていた。
その思考は少しずつ変化し、山との出会いによって決定的に変わった。



山とヨシコさん(第二話参照)との出会いで、自由度が増したというか、肩の力がいい感じで抜けたと。



ある程度仕事をいただいて、個展もやったけど、それでもそれ一本で生活できないし、限界を知ったというか。
そこがターニングポイントですけど、山と出会って「もっと自由でいいじゃん」みたいな気持ちに拍車がかかって。



ちなみに、けっこうな頻度で山に登られているとのことですけど、家族の反応はどんな感じなんですか?



何年か前に、息子を何度か連れて行ったことがあるんですけど、僕がけっこう険しい山とかに連れて行ってガンガン行くから、その反動で山むちゃくちゃ嫌いになって…。



しんどいし、もう行かへん、みたいな。奥さんはどうなんですか?



妻も山は登らないですね。だから、最近はもっぱら一人で登って、「山とTAOKA」を制作しています(笑)
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