葉ね文庫の現状と今後。そして休日の過ごし方と、おすす本・歌集の紹介

葉ね文庫のオーナーである池上さんのインタビューの最終回。

本屋さんの店主のお話なので、当然本屋さんの話が中心なのかというとそんなふうにはなっていなくて、どちらかというと仕事の話の方が多くなってしまっている。

そのような構成になってしまって「うわ、しまった」と思っているのかというとそんなことはなくて、別にテーマも決めてないし、本屋関連の話だと他でもいろいろインタビューされているだろうし、全然問題ないやんとは思っているし、実際なんの問題もないんだけど、最後にやっぱ本屋さんの話もあらためて聞いておこうと思ったので、そのへんの話を最後にまとめさせてもらいました。

あと、池上さんのおすすめ本と。

※写真:白石卓也

目次

葉ね文庫の現状と今後、その他について

2014年12月に葉ね文庫がオープンし、取材をしたのが2022年の8月。

開業してから8年近くたつわけだが、ご自身が最初に「本屋さんをやりたい!」と思われたときに描いた本屋さんと、現状の葉ね文庫は、そのイメージというか運営の在り方などにおいて乖離はあったりするのか。ちょっと気になったので訊いてみた。

なかがわ

いい意味で、最初にイメージしてたのと全然違ったものになってきたとかもあったりするのかなと思って。

池上さん

もともと、昔ながらのカチッとした本屋さんが私の中の本屋さんのイメージだったんで、そこからはかけ離れてるけど、お店立ち上げのときに内装とかをしてくれたKanataniさんとお話して、自分の中で「いける!」と思ったときのイメージとは同じというか、ずっと変わっていない。

なかがわ

ちなみになんですけど、最初の頃ってテーブルがあって、抜け感のある店内(第一話参照)だったと思うんですけど、それがなくなっていま全部棚になってるじゃないですか。

これは単純に本が増えてきたから棚を増やした感じですか?

池上さん

っていうのもあるし、あとは私があんまり、こうなんか人が集まる場とか好きちゃうから。

なかがわ

え、そうなん(笑)


池上さん

そう。自分と同じような人が来たときに、なんかこの店嫌やろなと思って。みんなの顔が見えてるし、一つの話題をみんなでしてるし。

なかがわ

あ、そういうことか、あえて遮る物があった方がいいかなっていう。

池上さん

私みたいな人が来たときに、逃げ場というか、自分だけで落ち着ける場所を作っときたいなと思って。

なかがわ

良くも悪くもオープンすぎた。

池上さん

前の感じ好きやったんですけど、自分が客やって思った瞬間に、自分みたいな客は嫌がるやろなと思って。

自然とサロンみたいな雰囲気になる店内

葉ね文庫さんの特色として、お客さんがソファに座ってゆっくり本を読める雰囲気があり、そのなかで自然とお客さん同士がお話をするといった空気感がある。

だから、上の会話で「人が集まる場とか好きちゃうから」という発言が飛び出したときに、「え、そうなん(笑)」と反応してしまったんだけど、お客さん同士の交流は自然とそんな感じになったそうで。

池上さん

私自身がすごいガッツリ喋ることってなくて、お客さんで喋る人がいたら盛り上がるし、私だけのときってけっこう静かで。

だから、お客さんがいたら、すごいサロンっぽくなるけど、居なかったら全然もうシーンって。

なかがわ

常連の人が何人もいたら、そういうの(=お客さん同士のコミュニケーション)は自然発生的になってるんですよね。

池上さん

めちゃめちゃありがたくて。(短歌とかを)作る人たちやから、創作者の気持ちわかるし、私は(創作を)さっさと辞めちゃったから、やっぱりそこは(創作に対する思いとかに関して)乖離があって。

なかがわ

なるほど、でそこに一見さんとかがたまに混じって行ったりとかもあったりとか。

池上さん

そうですね、ほぼほぼそんな感じ。初めての人やけど、なんか共通の話題で盛り上がるみたいな。ここ(=レジカウンターの中)で見ながら、「すごいなー」と思って(笑)。


しかし、来店した人が一人で本を読んでたり、お客さん同士でけっこうな時間話し込んだりしてると、経営者目線で見たときに稼働率が下がるというか、売上的にはプラスとはいえない状態であるともいえる。

そのあたりについて訊いてみると、

池上さん

そこはねもうね、(別途昼間に)働いてるし、いいかなって。

そういう人たちの話聞くのもやっぱり面白いし。なんかそういうコミュニケーション苦手やと思ってたけど、やっぱり興味がわくし、なんか聞いてて面白いですね。

なかがわ

さっきも言ってましたけど、人が集まる場が苦手なんですよね、元々は。てか、幼少期の話とか聞いたときも、そういえば独りが好きって言ってましたもんね。

池上さん

そうですね。本屋さんともふだん付き合いがなくて。

今日はtoi booksさんが来てくれて、久々に本屋トークしましたけど。私がいろんなところに顔出すほうではないんで。他の本屋さん行っても、店主さんとしゃべるとかまずないから。

なかがわ

逆にそれがいいんちゃいます? って勝手な意見やけど、「私もお店やってます」みたいな感じで根掘り葉掘りワーワー聞かれても、しんどいやんみたいなとこもあると思うんで。

池上さん

なんかそういう付き合い方は全くしないんで、けっこう全部自己流でやってます。

読読のときにもお世話になった葉ね文庫さん

上でも名前を出したけど、読読って本屋さんのポータルサイトを立ち上げる際、大阪・京都・神戸の本屋さんと東京の本屋さん100軒くらいを回って、OKをいただいた本屋さんを再度撮影で訪れた。

その際、葉ね文庫さんも訪問してて、快諾いただいたのでサイト立ち上げ時からお店の情報を載せさせてもらってるんだけど、

今回インタビューをさせてもらって、「一人が好き」とか「同業者とコミュニケーションしない」とかいう話を聞いて、突然「街の本屋さんを紹介するポータルサイトをつくろうと思ってるんですけど」と紙切れ一枚(サイト総TOPのラフデザイン)を持って説明し出したやつのことをどんなふうに思ってたんだろう?と、ちょっと気になったので訊いてみた。

池上さん

いや、面白い人やなと思って。

なかがわ

あ、そうなんですか。

池上さん

なんか興味が湧いて

なかがわ

実際やってみたら、けっこうみなさん乗っかってきてくれて。

こんなどこの馬の骨かわからんやつが、企業とかの後ろ盾もなしにやってきて、もっと普通に断られたりするかなと思ったんですけど。まあ、普通に断れたとこもあったけど、逆にみんなのっかったから「やらんとしょうがない」ってなったとこはあるんですけどね。

池上さん

他の人がどう思ったかわかんないですけど、私は面白と思ってそれだけで(笑)。


ちなみに、僕は常連さんでもなんでもなくて、前回葉ね文庫さんに行ったのも一年半前とかそんなのだったんだけど(そのときは4、5年ぶりくらいの訪問だった)、本を持ってレジに行った際に、「読読でお世話になった中川ですけど、覚えてますか?」って声をかけた。

なかがわ

そのときにめっちゃ驚かれて、「めちゃ大きくなりましたね」っておっしゃんですけど、覚えてます?

池上さん

覚えてない(笑)

なかがわ

覚えてないんかよ。

池上さん

思ってたよりも背が高かったと思ったんかな。多分そうちゃいますかね。

なかがわ

まあ、どうでもいい話なんでこのへんにしときましょう(笑)

今後の葉ね文庫について

本屋の話を、とかいいながらまたちょっと脱線してしまったので、軌道修正し、今後の葉ね文庫の展望について訊いてみた。

即答で、「なんか今のまま行きたいです」と返ってくる。

なかがわ

じゃあ、けっこう完成系じゃないけど今が理想的な感じなんですね。

あとは仕事もガッツリやらない程度にできて、本屋と昼の仕事のライフワークバランスというか、まあどっちも仕事ですけど、ちょうどいい感じで。

池上さん

ちょうどいいですね。あとは、古本もっと頑張っていきたいなと思って。

なかがわ

それはジャンルはあったりするんですか? やっぱ歌集とか?

池上さん

今の短歌の出てる本とかも、すぐなくなるから(絶版になったりする)、それをちょっとこう熟成させたら、いいお値段になるはずやけど、実践できてなくて。

今のとこ自分の本までも売ってもうてるっていう、ほしい人いたら(笑)。ぜんぜん成熟できてない。

なかがわ

5冊、10冊、残しといたったらええんちゃいます。

池上さん

そうなんですけど、それが全然できなくて。もうそこはもうこの先もできひんやろなと思って。

なかがわ

じゃ、探してるとか、欲しいって人が来たら、自分のやつあげてるんですね。

てか、それは言ってるですか? これ私のやつって。

池上さん

言ってない。著者とかが来たときに、「もう自分の本まで売っちゃいましたよ」とかは言いますけど(笑)。


と、著者来店の話が出たところで思い出したけど、著者(歌人、詩人)の方がよく来店するのも葉ね文庫さんの特色だ。

逆にいうと、ここの常連さんで歌集などを出版したいるのかな?と思って訊ねてみたら、「いるいる」「おっちゃんも、若い人も」ってことで、やっぱりおったようだ。

池上さん

若い人もどんどん出していってるから、自分が知ってた人が活躍しているみたいなのよく見てます。

なかがわ

そっか。それがさっきのサロンじゃないけど、そこでお客さん同士でなんかもうそういう話をやってたり。

みなさん、大阪の方ばかりじゃないですよね?

池上さん

そうですね。東京とかもいてるし。もともと大阪にいた人が東京に行ったりとか。

なかがわ

てか、急に思い出したんで、急に思い出したように訊きますけど、コロナのときはどうしてたんですか?

池上さん

一瞬閉めたけど、その後はやってました。お客さんも減ったけど、けっこう一人の人がたくさん買って、買いだめして帰るみたいな感じで。

なかがわ

巣ごもりやからいっぱい買わはったんですね。

唯一の休息日の日曜日に、葉巻をくゆらせる

平日昼間の仕事に本屋さんと忙しい日々を送る池上さんだが、ご家族(旦那さん)は何も言わないのだろうか?

ちょっと気になったので訊いてみると、「本屋さんをやるって言ったときは、ええ!ってなってたけど、経営とかに口を出すこともなく、今も応援してくれています」とのこと。

池上さん

土曜日、葉ね文庫を朝から夜までがっつりやってるんですけど、夫はボードゲームが好きで、友だちとボードゲームしてはります。

なかがわ

なるほど。でも、あんまりゆっくり二人で過ごす時間ってないのかなって思ったりしたんですけど、家に戻ってこいよみたいなのはないんですかね。

池上さん

そうですね、日曜日は家に居る日ってしてて。

なかがわ

純粋なお休みの日は何をしてるんですか?

池上さん

めっちゃ寝て、洗濯とかして。

で、あと最近は葉巻するのちょっとハマってて。

なかがわ

え、何きっかけで?

池上さん

なんか突然、葉巻吸ってみたいなってなって。二ヶ月前くらいから。


▲ 池上さんが葉巻を吸うきかっけになった「深夜喫茶マルサンド」のInstagram


なんとはなく始めたとのことだが、きっかけマルサンドっていう深夜喫茶のインスタかもとのこと。

同アカウントのpostに葉巻が写ってて、「うわ、葉巻吸いた!って言ったら、あ、もしかしたらそれ言ったの夫だったかな、どっちがいい出したかわかれへんけどなんか興味があって」とのこと。

池上さん

タバコとかは吸わないんですけど、(葉巻を)吸ってみたらちょっといいなってなって。

なかがわ

吸わなくてもいけたん?

池上さん

もう本当口の中入れて、プハーってするだけやけど、なんか楽しい。煙が口から出るっていう(のが、なんか楽しい)。

そのためにベランダに椅子も買いました。

なかがわ

あ、じゃあベランダで休日それをプハーってやるのがリラックスタイムみたいな。

池上さん

そうそう。一時間半ぐらいやってるかも。

コロナ禍以降の読書事情 & インタビューの感想

ちなみに、いろいろ忙しそうだけど、今は本は読めているのか、最後にそのあたりのことを訊いてみたら、

「本は読んでますよ。でも、コロナ禍なってからめっちゃドラマとかも見るようになったから(読書量は減ったかも)」と池上さん。

なかがわ

テレビ観だして読書量減るとか、ベタなやつですね。

てか、そろそろええ時間になってきましたし、だいたいお話も一通り聞けたし、これくらいにしときましょか。

池上さん

ちょっと、ハンさんとかのテイストと比べたら硬くないですか?(笑)

なかがわ

いやなにをおっしゃる(笑)。ハンさんを基準にするのがまずおかしいですよ。

池上さん

私あれけっこう好きやったから。中川さんのあのさばき方も。

なんか本の紹介とかもいっぱい話してくれたけど割愛しますみたいな感じ(笑)。

なかがわ

あれは、純粋に僕がめんどくさかったんで(笑)。

つーか、基本ダメ人間的なエピソードが出てくるんで、どうしても説教調になるというか、つっこみを入れる機会が多くなって、結果的にああいう感じになってます。

池上さん

まあ、どんなテイストでもいいんですけどね(笑)。


なかがわ

池上さんのインタビューっていえば、たいてい本屋さんのお話だと思うんで、その意味ではわからん人には全然ようわからんWEB解析のお仕事の話とかは延々やってんのは、それはそれで面白いのかなと。

嫌がらせかよ、って思われる可能性がないこともないけど(笑)。

池上さん

仕事の経歴を時系列で話してるのは、こんなんでいいんかなって、ちょっと不安になったりはしましたが。

なかがわ

全然いいと思います。まあ、何がおもろいねんみたいな人もいるかもしれませんが、一応、その人の自分史みたいなのを淡々としゃべってもらうのがサイトの趣旨…とかは特にないんですけど、取ってつけたかのように言うとそういうのが一応テーマになってたりしますので。

逆に、なんかこれだけは言っておきたいみたいなのがありましたら。

池上さん

特に無いかな、うん。

葉ね文庫さんのおすすめ本

最後に、池上さんにおすすめ本を三冊選んでもらい、紹介してもらいました。

※ご自身の永遠のマイベスト的なのではなく、取材時に急きょお願いして選んでもらった三冊です。

古井フラ『変身物語』(私家版・フルフラ堂)


ギリシア神話「変身物語」をイメージの源泉に、絵(鉛筆画)と詩を創作した詩画集。

中川さんが来られた日、葉ね文庫の展示スペースでは古井フラさんの原画と詩の展示をしていました。手に取ったお客さんの、なんかすごい本をみつけてしまったぞい、という驚きの表情を見るたび嬉しい。

フラさんの絵を見るとき私は、太陽を直接見てはいけないと目を細める、そんなふうです。詩を読むことで絵を焼きつけていく。 今は読んでいるときに不思議な高揚感に包まれますが、数年後はどんな感覚になるのか、それも楽しみです。

平岡直子歌集『みじかい髪も長い髪も炎』(本阿弥書店)

「短歌を読んでみたいのですが初心者におすすめの歌集ありますか」と尋ねられることがよくあります。

そういうときは数冊選んで読んでみていただくのですが、この本を混ぜることが多いです。初心者にというよりも、一読で短歌っておもしろいと思ってもらいたくて。切り札てきな。


【同歌集から一首】
ねえ夜中のガードレールとトラックのように揺れよういちどだけ明るく

京大短歌会『京大短歌 27号』

大学短歌会の機関誌は、葉ね文庫の売れ筋本です。いろいろな大学のものを扱っており、そのときに所属しているメンバーやその活動によってグッと盛り上がったり話題になったりして、入荷案内をするとすぐに買いに来られるお客さんもたくさんいます。

中川さんが来られた日、ちょうど京大短歌に所属している学生が居合わせたので、京大短歌を。作品や評論、座談会の記録など読みごたえたっぷりです。そう遠くない未来に、この方たち、人気歌人となるのだろうな…と思うと、多めに仕入れて寝かせておこうか、って考えたりしますわね。

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